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ICTの導入で
サービスが向上する
現場の今。

東灘区特別養護老人ホームかもこの風

介護の現場でも積極的に導入されているICT機器。
実際にどのような機器を使い、どのように職員や入居者のケアにいかされているのか。
特別養護老人ホームかもこの風の部長介護職・吉岡直樹さんに施設で導入されているICT機器についてお話しいただいた。

取材に伺ったゲンバ

特別養護老人ホームかもこの風<東灘区>
70床の長期入居と10床のショートステイ、全部で80床のユニット型施設。2019年の開設時からICT機器を導入。約40名の介護職員の職場環境改善やサービスの向上に取り組む。

施設HP

施設オープンのタイミングが、
新しい取り組みを導入する転機に。
眼下に神戸の街が一望できる、山のうえの閑静な住宅街に佇む特別養護老人ホームかもこの風。その建物の一室で、ICT機器の導入は施設のオープンがきっかけだったと吉岡さんは経緯から語ってくださった。

ICT機器が便利なのは知っていて、各事業所で『あれ、入れたいね』という話は時々あがっていたのですが、最終的には今のままでいいんじゃないかということで導入を見送っていました。かもこの風は新たにオープンすることから、開設当初から、眠りスキャン、離床センサー内蔵のベッド、インカムなどの導入に踏み切りました。

お話しいただいた吉岡直樹さん

職員の経験と勘が、
データで目に見えるカタチに。
吉岡さんの目の前にはノートパソコンがあり、その画面には入居者の睡眠データが映し出されている。眠りSCANというシステムで、ベッドのマットレスの下に設置したセンサーが呼吸や心拍数などを測定し、睡眠状態を把握することができるという。

パソコンに送られたデータは解析することができます。たとえば週に1回だけ睡眠状態が悪い時がある場合は、この日は何かあったかなという振り返りができるようになりました。また、夜間は就寝されているはずなのに日中よくウトウトされている方は、データを見ると実はあまり眠れていなかったということも多く、その場合は主治医に相談して薬を処方してもらったり、睡眠のタイミングを考えて服薬の時間帯を調整したりしていますね。

睡眠をデータで可視化することのメリットは、入居者それぞれへの対応ができるだけではないと吉岡さんは語る。

なんとなく私たち介護職が気になっていたところが、目に見えてわかるようになりました。

パソコンで、各入居者の睡眠データが一括で管理でき、職員同士で情報共有できる。

マットレスの下に内蔵されているセンサー。薄型で、従来のベッドと変わらない寝心地。

職員がずっとそばで入居者を見守ることはできない。そこでベッドには、眠りSCANだけでなく離床センサーというシステムも備わっているそうだ。

ベッドから足を下ろした時に感知するマット型のセンサーは昔からありました。でも、勘のいい入居者様は、これを踏んだら職員が来ると思って、避けて降りられたりするのです。

そのため、かもこの風は、センサーが内蔵されているベッドを導入した。

このセンサーはなかなか便利で、離床予報がついていて、ベッドから起き上がろうとした時にアラートが職員のPHSに届きます。起き上がる時に転倒してしまうリスクの高い方に設定しています。

ベッドに内蔵されているセンサーに連動。コントローラーで個別に設定できる。

一般的な機器も使うことで、
職員同士の連携をしやすく。
またインカムやタブレットといった機器も、現場では導入されていた。

私たちの法人の他の施設では、ナースコールや離床センサーと連動しているPHSやスマートホンを導入しているのですが、更にかもこの風では全職員がインカムも持っています。特にうちのようなユニット型であれば、自分が担当する部屋に入って介助する時は、ほかのユニットが見えない状態になります。インカムで別ユニット同士もすぐに連絡できることで、ケアをしている方以外に見守りが必要な方がいらっしゃれば、隣のユニットの職員にインカムで応援要請をすることができます。

さらにインカムを導入するメリットは、ユニット同士の連携以外にもあると吉岡さんは語る。

あとは緊急時ですね。緊急時はどうしても介護職員は焦ってしまいます。以前、看護職員へ連絡する際、混乱してPHSの番号を忘れてしまうケースもありました。でも、インカムを使うことで看護職員だけでなく、手の空いている職員が駆けつけたりと応援要請も同時にできるようになりました。

全職員に配布されているインカム。PHSやスマホと異なり、施設の電源に依存しないため災害時でも使うことができる。

あとはタブレットも活用しています。入居者様の食後などのタイミングで、健康状態や介護記録などの情報をパソコンに入力していくのですが、デスクに戻ってからですと手間がかかります。タブレットだと、入居者様の隣で記録ができますし、褥瘡(じょくそう)の状態を見つけた時は写真を撮って、共有することもできます。経過観察の面でも、言葉で何センチ×何センチと状態を書くより写真で見る方が、良くなっているのか、悪くなっているのかがわかるので大変便利です。

現場との連携で、
より良い機器の開発を。
取材の最後に語られたのは、今後のICT機器について。吉岡さんの言葉には、もっと現場目線にたった技術革新を望む想いが溢れていた。

今はカメラで入居者様を見守るシステムや、気泡で身体を洗える浴槽なども出てきています。カメラはプライバシーの問題で導入を見送りましたし、浴槽の方は職員に負担をかけずに入浴介助できるところは魅力ですが、高齢者の方の気持ちになると石鹸で洗って欲しいのではないかという疑問があります。どちらも機器としては、すごくいいと思いますが・・・。

何年か前に介護の仕事について研究されている大学院生のアンケートに協力する機会がありました。その方から、研究者と介護現場の職員さんとの接点がないまま、機器が開発されていると聞きました。これからは機能以外の面でも、現場の声をカタチにしたものが出るとうれしいですね。