介護ではたらくみんなを応援! コウベ de カイゴ

デジタルとアナログを融合したクリエイティブな発想力で、利用者様と職員の笑顔が溢れる施設に。

垂水区 特別養護老人ホーム塩屋さくら苑

業界全体でICT機器の導入が進む昨今。しかし大切なのは機器の導入ではなく、そこからいかに価値ある変化を生み出すか。法人の「セーフティケアプロジェクト」を牽引し、その可能性を真摯に追求する道村悌紀さんに詳しく話を伺った。

取材に伺ったゲンバ

特別養護老人ホーム塩屋さくら苑<垂水区>
2021年より法人全体で「セーフティケアプロジェクト」を開始。移乗用リフトや見守りセンサー、インカム、介護支援ソフトなどを導入し、利用者様・職員の両者にとって安心・安全なケアを推し進める。

法人HP

1. 介護サービスの質の向上のため、
身体的負担の軽減を追求する。
介護に携わる職員への身体的な負担の少ないケアの実現は、介護サービスの質の向上にもつながる重要な課題である。腰痛をはじめとする負担の軽減は、設備の導入だけでは根本的に解決しないと道村さんは語る。

移乗用リフトを使うだけでは職員の腰痛は軽減しないと確信し、どうすれば身体的負担の少ないケアを実現できるかを徹底的に分析することにしたんです。作業内容を詳細に測定し、1日に何回、何時間、どのような動作をどれくらいの回数をしているかを数値化。さらに全職員へのアンケート調査で、腰痛リスクの高い作業を洗い出しました。

とにかく日常業務の全てにおいて、不良姿勢をなくしていこう、と。その試みの結果、先行して取り組んでいるメンバーから『腰痛が軽減された』『かなり楽になった』という意見が多数上がっています。

道村さんは、この取り組みが介護業界全体の問題解決につながることを期待している。

腰痛予防の取り組みがさらに浸透していけば、介護職そのものが安心して長く続けられる仕事になると思っています。

お話いただいた道村悌紀さん

2. 利用者様と職員、両者の安全性を強化する
「セーフティケアプロジェクト」
社会福祉法人神戸中央福祉会では、2021年から法人全体で「セーフティケアプロジェクト」を開始し、道村さんもその中心メンバーとして立ち上げから携わっている。

いわば、『利用者様と介護者の双方を守るセーフティケア』という考え方です。たとえば従来の抱える移乗方法だと、接触による感染症のリスクや怪我が発生していたのですが、移乗用リフトを導入することで利用者様の皮膚の損傷や褥瘡を減らし、職員の腰痛リスクも軽減することができました。このように、ひとつの施策で双方の安全性が高められる取り組みを推進しています。

その主体はあくまでも利用者様。しかし介護サービスの品質を追求していくと、結果的にそれが職員の業務効率の改善にもつながるという。

見守りセンサーも導入して、利用者様の夜間の睡眠データを記録しています。これによって、利用者様が目を覚ます時間がわかり、睡眠を妨げずに介助を行うことが可能になります。

また、集めたデータから個々の利用者様の生活リズムが可視化されることで、「利用者様に合わせた、よりタイムリーなケア」を展開し、職員が忙しい時間帯を明確化することができ、適切な時間・場所に職員を配置できるようになりました。その結果、ケアの品質だけではなく業務の効率も向上しています。

効率化によって生まれた時間的・精神的な余裕が、さらに介護の品質を押し上げる。そんな好循環が施設全体で生まれている。
3. 重要なのは設備の導入ではなく、
いかに価値ある変化を生み出すか。
塩屋さくら苑では、移乗用リフトや見守りセンサーだけでなく、インカムや介護支援ソフトの導入、高速で安定したインターネット環境、災害時に備えた非常用電源設備など、先進的な設備が充実している。しかし本当に大切なものは、設備導入の先にあると道村さんは言う。

機器を導入するのは簡単です。重要なのは、その機器から得られたデータを活用して、介護サービスの質や職員の業務をどう改善するかなんです。

価値ある変化を生み出すためには、最新機器の使用が全てではない。

たとえば掲示物ひとつを取ってもそうなんですが、利用者様向けのものは利用者様の目線の高さに掲示して、職員が目にするものは職員の高さに配置する。これだけで、利用者様は快適に読むことができるし、職員は腰をかがめる必要がなくなります。

機器を導入しなくてもやれることはたくさんある。いち介護職員でありながらも、業務改善のプロフェッショナルとして、道村さんは施設内の設備に日々目を光らせている。

4. 目の前の課題から本質を見出す、
クリエイティブな思考の源泉とは。
新しい機器や設備を導入しても、その効果を最大限に発揮できている施設はそう多くはない。新たな取り組みを進める際の心構えについても、道村さんは語ってくれた。

新しいものを取り入れる際には、必ず今あるものを減らすようにしています。1つ増やすなら2つ減らす。新しい業務が増えるばかりだと、職員の負担も大きくなる一方ですから。

最新機器や業務改善だけでなく、“人の気持ち”にもしっかりと目を向ける道村さん。最後に「介護職のやりがい」について尋ねた際に、彼の仕事の原点が垣間見えた。

80年、90年と長い人生を歩んでこられた方々には、やはりそれだけの歴史があります。この利用者様はなぜこの動作を嫌がるのか、その原因が育ってきた家庭環境に起因しているケースもあります。その方の人生を知ることで、一歩踏み込んだケアができる。それがすごくうれしいんです。

利用者様の声に丁寧に耳を傾ける。そんな余裕があるのも、やはり業務の効率化や時間短縮があってこそだと言う。

施設は、利用者様にとって自宅に近い場所。私たちはその環境をつくっているという意識を持つべきです。職員が慌ただしく走り回ってると利用者様も不安になるし、大きい声を出していると緊張させてしまう。利用者のQOL向上のために、機器や設備を活用していきたいですね。

前職は大工に従事していたという道村さん、そのクリエイティブな発想力はこの業界でも大いに輝きを放っている。