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利用者と
ともにつくる
新しいビジネス。

長田区 みらいおもいけ園

長田区にある「みらいおもいけ園」。知的障害のある方の就労支援を行うこちらの施設では、2022年からコーヒー豆を焙煎・販売するビジネスに取り組んでいる。従来就労支援では内職仕事が多いが、なぜコーヒー豆にチャレンジしたのか。施設長の阪井 章訓さん、職業指導員の古瀬 剛志さん、生活支援員の井上 美咲さんにお話をうかがった。

取材に伺ったゲンバ

みらいおもいけ園<長田区>
約60名が利用できる多機能型障害者施設。障害の特性に合わせた4つの班にわけて、職員がさまざまなカタチで、現在は55名の利用者の方の就労支援・生活支援を行う。

施設HP

リーススコーヒーInstagram

新たなビジネスに
チャレンジしたきっかけとは。
阪井さんうちの施設では利用者さんの特性に合わせて4つの班でさまざまな作業をしています。その内の1つとして、就労継続支援B型(※)の方と一緒にコーヒー豆の焙煎・販売を行っています。
古瀬さんその他にも有馬グランドホテルさんのタオル折り、ロンタムさんという靴メーカーの靴箱折りなども行っています。

施設長の阪井 章訓さん(左) 生活支援員の井上 美咲さん(中) 職業指導員の古瀬 剛志さん(右)

阪井さんコーヒー豆を焙煎・販売するという新たなビジネスをはじめたきっかけですが、就労継続支援B型の方へは、工賃として月3,000円以上は支給してくださいという国の基準があるんです。兵庫県の平均は、月14,000円。でも、うちは月3,000円ぐらいしか支給できてなかったんです。
井上さん何かしないといけないと思って色々考えたんですけど。今は下請けの仕事を取るのも難しくて。
阪井さんお弁当づくりとか掃除するとか、ポスティングするとか、内職するとか、色々検討しました。
古瀬さん利用者さんができること、って考えると内職が候補に挙がるのですが、工賃が安いんですね。現状打破するには自分たちで製品をつくるのがいいかなと思いました。
井上さん考えているうちにコーヒーというアイデアがでてやってみようと。
阪井さん灘区に石光商事という会社があるんですけど、社長さんが福祉に理解のある方で、全面的にバックアップしてくださって、始めることができました。コーヒー以外にもたくさん案はありましたが、設備投資の面や、実現性、作業性、障害特性なども総合的に考えて判断しました。

焙煎して粉状にしたコーヒーを計量する利用者の方
緻密なルーティンワークが利用者さんの障害特性に合う

袋詰めをする様子

担当者の熱意で実現した
コーヒー焙煎の仕事。
阪井さんこの事業に関しては古瀬が主に担当して、いろいろ奔走してくれました。もともと私は製紙会社のシステムエンジニア、彼も先ほど話の出た靴メーカーのロンタムさんで企画などをしていて、一般企業での経験があったのも、上手くスタートできた要因だと思います。
古瀬さん石光商事さんには何度も通って焙煎やオペレーションについてレクチャーを受けました。
古瀬さん園のキャッチフレーズが『笑顔∞無限大』なので、商品名はラテン語で笑顔という意味の『リースス』にしました。

商品パッケージとオリジナルマグカップ

ロゴマークのヒントとなった利用者さんの作品

古瀬さんロゴはたまたま友だちにアクセサリーブランドをしている人がいて、その人に利用者さんが書いた絵を見せて、施設や商品コンセプトを伝えて、そこからイメージして作ってもらいました。
阪井さん結構皆さんいろんな絵を描かれる方がいらっしゃいますし、芸術性の豊かな方が多いです。
古瀬さんロゴのモチーフとなった絵を描かれた方は聴覚障害がある方なのですが、僕らが模写したものとは全くちがうものが生まれており、アートを感じました。

施設内に貼られている利用者さんが描いた絵

井上さん焙煎は私たち職員が行います。計量、袋詰めといった作業がシンプルで、知的障害のある方にあった仕事だったのが良かったと思います。
阪井さん販路は私や古瀬のツテで探しました。あとは近隣の学校や住民の方、神戸市さんなどです。
古瀬さん最近ではネット販売、別の事業所がやっているカフェや農産物直売所にも卸しています。

コーヒーを焙煎する様子

めざしたいのは
新しい就労支援のカタチ。
阪井さん職業指導は古瀬、支援のアプローチは井上、それぞれのプロが分業してやってくれるので、うまく始められたと思います。
古瀬さん課題であった工賃は、月約17,000円も支給できるようになりました。利用者の皆さんも「こんなにもらえるの!」と喜んでいたので、良かったです。
井上さん商品の納入や販売会の接客などで利用者さんが、一般の方と接する機会が多くなったのも良かったですね。
古瀬さんでも正直にいうと、近しい業界の中で買っていただいているのが現状です。福祉事業所がやっているからじゃなくて、単純にこのアイテムがいいっていう風に思ってもらえる。一般市場で勝負できるものを作りたいですね。
阪井さんこれからはパンづくりをはじめる予定です。和田岬のメゾンムラタさんという有名なベーカリーにサポートしていただいています。
井上さん技術指導は私が受けていて、夜が明ける前から修行に行っています。
古瀬さん私はファッション系からの転職なので、利用者さんの作品を使ったアパレルとか雑貨をつくってみたいです。
阪井さんうちは資格取得の費用をすべて法人が出してくれたり、異業種からの転職者も多かったり、いろいろな経験をした人が多いのが強みですね。いろいろな人がいて、それぞれに役割があって、みんなが主役になってくれています。これからもチャレンジを続けていきたいですね。

※就労継続支援B型とは、
雇用契約を結んで働くのが難しい方が、軽作業などの就労訓練を行うことができる福祉サービス